AI研修で情報の扱いを練習する|入力してよい資料を選ぶ演習
AI研修のセキュリティ演習を、資料の分類・加工・相談先まで選ぶ判断表で設計します。教材例を基に、自社で実施するための承認済みAI、確認担当、相談経路、採点・更新の条件が分かります。
AI研修のセキュリティ演習では、資料に何が含まれるかを見分け、そのまま入力の候補にできるのか、加工後に候補となるのか、誰へ相談するのかまで選ぶ課題が必要です。一連の選択を判断表に残せば、入力直前に必要な判断を練習できます。
自社で実施に進める条件は、架空の教材、自社の情報区分、承認済みAI、利用サービスの規約・設定を確認する担当、実在する相談経路がそろっていることです。採点対象には、入力可否の結論とともに、資料の分類、加工案、確認した根拠、相談先を含めます。ただし、加工後の資料をどの条件なら入力候補にできるかは、演習前に自社で決めなければなりません。
AI研修のセキュリティ演習は「入力前の分岐」を課題にする
入力禁止情報の一覧を読んだ受講者でも、実務資料を前にすると迷います。公開済みの説明資料に担当者名が混じっていたらどうするか。社内向けの文章から固有名詞を外せば使えるのか。営業秘密を含み得る資料なら、加工を試みてよいのか。この迷いを消してしまう教材では、判断の過程を観察できません。
2026年9月21日時点で、IPAは、インターネット経由のクラウド型チャットAIへ営業秘密を入力すると運営企業へ情報が渡り、やり取りが将来のAI改良用データとして利用される場合があると説明しています。規約や設定によって、入力を保存・学習の対象から除外できる場合もあります。可否を決めるには、利用するサービスの規約・設定の確認が必要です。IPA「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」
つまり、「資料が機密か」だけでも、「会社指定のAIか」だけでも判断は完了しません。資料の中身と利用環境を組み合わせ、確認できないときは入力を止める。この分岐を教材にします。生成AIは期待に反する動作をする可能性があり、使いどころを考え、使用時にも注意と確認が必要だという同資料の原則とも一致します。
教材例:資料の分類・加工・相談先を一枚で選ぶ
以下は、出典の一般原則を基にした実務上の提案であり、IPA所定の分類や義務ではありません。受講者には架空の資料だけを渡し、各行を埋めてもらいます。実在する顧客情報や社内文書を演習素材へ転用しません。
| 架空の資料 | 観察する情報 | 一次判断 | 加工する場合の案 | 再確認する条件 | 判断不能時の相談先 |
|---|---|---|---|---|---|
| 公開済みの製品説明 | 公開範囲と、非公開の追記が混じっていないか | 入力候補 | 不要な固有名詞を除く | 公開済みであること、承認済みAIであること | 資料の公開責任者、AI利用の管理担当 |
| 社内向け会議メモ | 未公開方針、個人名、取引先名の有無 | 加工後の入力候補、または相談 | 固有名詞や識別可能な記述を除く・架空化する | 自社の情報区分と利用目的に照らしてよいか | 上長、情報セキュリティ担当 |
| 個人情報を含む問い合わせ記録 | 個人を識別できる記述や組み合わせ | 入力せず相談 | 加工案自体を相談し、許可なく入力しない | 加工後も識別につながらないか、自社ルール上扱えるか | 個人情報の管理担当、法務 |
| 営業秘密を含み得る提案資料 | 未公開条件、技術、取引情報の有無 | 入力せず相談 | 自己判断で加工して投入しない | 利用サービスの規約・設定と自社の承認条件 | 情報セキュリティ担当、法務、資料の責任者 |
この表の「入力候補」は入力許可を意味しません。公開済み資料でも、非公開の追記があれば判断は変わります。固有名詞を消しても、記述の組み合わせから対象が分かるなら、加工済みというだけで進めません。最終的には自社ルールと、使用するサービスの規約・設定で再確認します。
IPAは、AIのセキュリティ面の課題として、個人情報・営業秘密の漏洩に加え、サプライチェーンへの攻撃や漏洩・改ざん、学習データの改ざん・汚染、偽情報・誤情報を挙げています。2026年9月21日時点の課題整理はIPA「AIセキュリティ」で確認できます。この演習の対象範囲は、そのうち利用者が入力前に資料を扱う場面です。
迷いを残す設問と、止めるべき設問を分ける
設問には、判断が変わる条件を意図的に残します。たとえば公開済みの製品説明なら、「公開ページと同一」「社内追記あり」「公開状態を確認できない」という違いを添えます。社内向け会議メモなら、固有名詞を除く案を出させたうえで、加工後の利用可否を誰が確かめるかまで答えさせます。
一方、個人情報や営業秘密を含み得る資料は、研修中に実際のAIへ入力させる必要がありません。架空の台帳上で「入力せず相談」を選び、相談時に伝える内容を整理すれば、入力操作を伴わずに分岐を練習できます。
設問ごとに、少なくとも次の欄を用意します。
- 資料から見つけた情報の種類
- 「そのまま入力の候補」「加工後の入力候補」「入力せず相談」の選択
- 加工するなら、除去・架空化する要素
- 規約・設定、自社ルールのうち未確認の項目
- 判断できない場合の相談先と、相談時に渡す情報
回答では加工方法の多さより、未確認事項を見つけた後の行動を重視します。未確認事項が残るなら入力を止め、決められた担当へつなぐところまでを一つの回答にします。これも出典の一般原則を基にした記事上の提案であり、原典が定めた分類や義務ではありません。
採点は結論・理由・相談先を分ける
「入力可」「入力不可」の二択では、偶然当たった回答と、条件を確認した回答を区別できません。採点では次の観点を分けます。これは出典の一般原則を基にした実務上の提案であり、IPA所定の評価方法ではありません。
| 採点観点 | 確認する回答 | 差し戻す状態 |
|---|---|---|
| 分類 | 資料中の公開情報、社内情報、個人情報、営業秘密を含み得る情報を指摘したか | 資料名だけで決めている |
| 利用環境 | 承認済みAIか、規約・設定を誰が確認したかを示したか | ツール名だけで安全と決めている |
| 加工 | 除く・架空化する対象と、加工後も再確認する条件を示したか | 匿名化という言葉だけで入力可としている |
| 停止判断 | 未確認事項があるとき、入力せず保留できたか | 推測で入力可否を確定している |
| 相談 | 自社で定めた担当を選び、何を確認するか示したか | 「詳しい人」など経路が特定できない |
正解表を既製の全社共通版として固定してはいけません。2026年9月21日時点で、IPAのDX推進スキル標準(DSS-P)に業種・職種を問わず使える統一的な達成基準一覧はなく、各社の事業特性や育成方針に合わせて必要項目を選び、独自の評価指標を作ることが勧められています。IPA「デジタルスキル標準(DSS)策定の背景・目的」
したがって、表中の相談先もそのまま採用せず、自社の正式な部署名や役割へ置き換えます。情報セキュリティ、法務、上長の誰が何を判断し、窓口が不在ならどこへ上げるかが決まって初めて、採点可能な教材になります。研修全体での位置づけは生成AI研修のカリキュラム設計|職種別の演習と定着までも参考になります。
実施前にそろえる条件
教材を配る前に、研修担当者は次を確認します。すべてが「確認済み」なら実施へ進み、一つでも確認できなければ、その項目を受講者に判断させず、運用側の課題として保留します。
- 演習で利用候補とするAIとアカウントが承認済みか
- 入力の保存や学習利用に関する規約・設定を、誰がどの状態で確認したか
- 自社の情報区分と、各区分の入力可否を誰が判断するか
- 加工後の資料を再確認する担当と、判断を保留する条件
- 情報セキュリティ、法務、上長などへの実在する相談経路
- 教材がすべて架空化され、実データを含まないか
定まらない項目がある場合は、「入力せず、指定の暫定窓口へ相談」を模範回答にし、未決事項を教材とは別に管理します。研修サービスを選ぶ段階なら、教材の個社化範囲や成果物の確認方法を生成AI研修の比較・選び方【2026年版】|タイプ別の向き不向きと照らして確認できます。
模範回答は実施のたびに更新する
IPAの教材は、AIをめぐる状況は流動的で、数か月後には事情が変わる場合があり、一般的な想定があらゆる状況に当てはまるものではないと注意しています。教材の公式掲載ページでは、AIやセキュリティに詳しくない利用者・マネージャを想定し、社内研修などにも利用できるスライド形式であることが説明されています。いずれも2026年9月21日時点で確認した内容です。IPA「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」
演習の実施前には、利用候補サービスの規約・設定と社内の相談先が現状に合うかを確かめ、模範回答を更新します。確認担当、確認対象、更新日を教材管理欄に残せば、以前の回答を流用するリスクを抑え、変更の影響を追いやすくなります。この更新方法も一般原則を基にした実務上の提案であり、原典所定の義務ではありません。
実行の可否は、架空資料を使えること、自社の情報区分と承認済みAIが分かること、規約・設定の確認担当がいること、加工後も再確認できること、相談経路を模範回答に書けることの5条件で決めます。すべてそろった段階で、資料の分類・加工・相談を一続きで練習できます。未決の項目は研修担当者の運用課題として切り分け、受講者が推測で埋める設問にはしません。
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